満腹詩人ブログ

ぐっすり眠ってたらふく食らい、好んで味わうセンチメンタル。悩みらしい悩みもないのだけれど、幸せだとは思っちゃいない。ぼくもあなたも「まんぷくしじん」- まだ何を書いていくか定まらない多文量ブログ。

『風立ちぬ』をもっと味わう - 類い希なる音響表現と堀越二郎のその後について

f:id:hasusu:20130820183121j:plain

8月某日
映画『風立ちぬ』を観た。

 

ジブリ作品を劇場で観るのは『もののけ姫』以来だった。
でも観る前は「零戦の映画」だと思っていたから、
そういう映画が世の中に増えたことだけで満足気味な小生、
さほど大きな期待は持たないように観覧した。
そして、すごく満足した。

 

満足して帰って家族に話すと、
普段映画などみなさそうな弟には珍しく、
風立ちぬをすでに劇場で観たという。

 

感想を尋ねたところ、
「子ども向きじゃなかったね」などと言葉を濁すばかりで、
どうやらお気に召さなかったらしい

 

確かに本作には、
もちろんウシは好きだけど、
愉快でファンタジックな生き物は出てこないし、
分かりやすいハッピーエンドも用意されていない。
だけど小生、「風立ちぬ」はとても良い映画だと思っている。

 

そういうわけで、小生、お節介の性分により、
全国と思われる弟たちに向けて、
「こういうことを知っていたら、
本作の見方がもうちょっと変わるんじゃないかしら?
風立ちぬの魅力が増すのじゃないかしら?」
と思うようなことを、書いてみることにした。

 

この記事は「風立ちぬ」をすでに見た人が読むことを想定しているが、
公式に出ている情報以上のネタバレはない。
だからこれから観るという人にとっても、
本作を楽しむ手がかりにしていただけたらなお本望だけれども、
間接的なネタバレは含むので、その点は予めご容赦頂きたい。

 

景気づけにここに貼ろうと思って、
いまyoutubeに上がっている予告編を見てみたけれど、
本編とずいぶん異なる印象を受けて小生、少し困惑したので、
BGM代わりにこちらをどうぞ。
odani misako・ta-ta - ひこうき雲 - YouTube

 

風立ちぬのテーマソング、ユーミンの『ひこうき雲』は、
原曲のうたとアレンジがこれ以上ないというくらい素晴らしい。
カバーをするにも、原曲に根ざした表現になりがちなようで、
あえてすこし違った印象のアレンジへの挑戦は
あまり見かけないと思って小谷美沙子のうたうta-ta版をチョイスした。

 

それにしてもこの「ひこうき雲」。
「風立ちぬ」のために作られた歌では
ないということがまったく信じがたい。
歌詞なんか、もうものすっごく「風立ちぬ」を思わせる。

 

ということは、歌に合わせて映画を作ったのが真相。
ということではいかがでしょうか?
だめでしょうか?

 

・・・そろそろ本題に入ります。
話題は①~④まで全部で4つあります。

 

 

① 効果音はぜんぶ人の声。そしてぜんぶモノラル。

「風立ちぬ」は、公開前からテレビなどでも
ずいぶん紹介されていたタイトルなので、
こんなこと、いまさら言われなくてもご存じの方ばかりかも知れないが。
小生、観てから知りました

 

人の声による音響表現は、明らかに挑戦的な試みだと思う。
一方、モノラルは「集中しやすい」音響方式だと考えての採用だという。

 

これらの話を観る前から知っていたら、
もうちょっと意識して聞いていたのかも知れないけれども、
小生は「雰囲気が出てるなあ」「ジブリ感あるなあ」と
思ったくらいで、人の声であることや、モノラルであることにも、
観ている間、まったく意識することなく、
まったく違和感を抱かずに映画を楽しんだ。

 

近年公開されるような新作映画は、
ステレオ(スピーカー2つ)、どころかサラウンド(スピーカー5つ以上?)、で、
いろんなところから音が鳴るように出来ていて、
それが当たり前みたいに思っていたけれど。

 

あえてセオリーに逆らった作りを
してきちんと成功したということを、
図らずも身をもって証明してしまった形になった。

 

宮崎御大とジブリの類い希なる判断と、
挑戦、そしてその成功を知り、
改めて感慨深く思ったポイントのひとつである。

 

 

② フィクションとして観る視点

堀越二郎の半生を描いた」などという
宣伝のされ方などを観ていると、
伝記だと誤解されやすいのではないかと思うが、
「風立ちぬ」はかなりの部分がフィクションだ。

 

本作の主人公「二郎」には、
堀辰雄の自伝的小説と、零戦設計者の堀越二郎という
ふたつのモデルがいることになっている。
堀越二郎の名こそ借りているが、
記録に基づく部分も大まかにあるけれど、
小説という完全フィクションのモチーフを含む以上、
基本的に本作は伝記とは言い難いのは明らかだろう。

 

小生、てっきりかなりの伝記映画だと思って観てしまったので、
映画で描かれる出来事を、歴史の年表のように並べ、
整理しながら物語を理解しようとしてしまって、
ずっと気が散ってしょうがなかった。

 

フィクションが多分に含まれているのだから、
史実など、映画で語られない知識に基づいて、
論理的な整合性を付けようとするのはそもそも無茶だったのだ。

 

そういうわけで、小生のように
些末なことで気が散りやすいタイプの人は、
フィクションだと思って観ていく方が、
本作を素直に楽しめるのではないかと思う。

 

 

③ 映画で描かれなかった二郎の活躍

予告編や前評判、そして本編通じ、
二郎は「零戦を作った人」として印象づけられる。
オフィシャルな設定によれば、13歳から42歳までの30年間が、
映画の中の、二郎の物語だ。

 

一方、主人公のモデルとなった実在の人物、
堀越二郎は1982年、78歳まで生きた。
映画の二郎よりもずいぶん長く物語は続いたのだ。

 

戦後の日本で、初めて作られた旅客機がある。
YS-11、オリンピアという通称で知られた。

 

映画には描かれていなかったけれど、
堀越二郎が、戦後初の国産旅客機YS-11
開発においても重要な役割を果たしたということは、
零戦の開発と合わせて知っておいておきたい逸話だろう。

 

さらに余談にはなるが、
YS-11が開発される1960年代までの戦後の時期、
日本は航空機を持つことも作ることも許可されていなかった。

 

戦後、日本が所有していた全ての航空機は破棄され、
航空機メーカーも解体されていたし、
さらに大学で航空に関する学問を教えることも禁じられていた。

 

航空機が禁止されていた時期の堀越二郎の心中いかばかりか。
映画の人物像を偲ぶとなおさら心が痛む。

 

そんな不遇の年月を経て、再び航空機の
開発に携われた喜びはどれほどのものだっただろう。

 

YS-11は、堀越二郎が亡くなったあとも
世界中で飛び続けた。

 

 

零戦を観に行こう!

「一機も戻ってこなかった」という零戦であるが、
復元された実物などが国内にも何機か保存されている。
アメリカの博物館が所有する機体などは、
実際に稼働して飛行も可能だそうだ。

 

 小生の暮らす東京にも、
零戦を実際に観られる場所が二カ所ある。

 

一カ所目は靖国神社に併設された、
遊就館という宝物殿の玄関ロビーだ。

 

展示観覧のチケットを買わなくても、
見学が可能なスペースに展示されている。
チケット買って2階に上がれば、
テラスから零戦を見下ろすこともできる。

 

ちなみに零戦と同じロビーにはレストランも併設されていて、
明治発行のレシピを用いたという珍しい『海軍カレー』が食べられる。
(小生、賞味済。)

 

二カ所目は上野にある国立科学博物館だ。
地球館の2階に常設展示されている。

 

実は国立科学博物館零戦は、
複座式(ふたり乗り)に改造されている。
そのためキャノピー(パイロットが乗るところ)が前後に大きく、
一般的な零戦のシルエットとは少し異なるのだけれど。

 

「風立ちぬ」を動機にゼロ戦を観に行くのであれば、
国立科学博物館の方がお勧めだ。

 

国立科学博物館零戦の傍らには、
映像資料と図面など、零戦だけでなく
YS-11堀越二郎を紹介する展示もあるからだ。
(常設展示だったから、なくなってはいないと思う。たぶん。)

 

都内以外でも零戦が展示されているところはたくさんある。

零式艦上戦闘機 現存する零戦 - Wikipedia

こちらのリンク先などで調べて、機会があれば観に行ってみよう。

 

堀越二郎の描いた「美しい夢」の片鱗に触れれば、
映画『風立ちぬ』がもっと味わい深くなること請け合いだ。

 

まとめ

小生が弟に伝えられたのは今のところ③だけだ。
堀越二郎はあそこで終わりじゃなくて、
戦後も活躍して、戦後日本で最初の旅客機も作ったんだよ」

 

弟は、特に興味もなさそうにこう答えた。
「んー、それは(映画内で)語られた方がよかったね」

 

んー、敗北感★

 

拙文ご読了、誠にありがとうございます!

 
合わせてどうぞ。本ブログの風立ちぬエントリー
『風立ちぬ』うんちくであなたもモテモテ? - ポスターの飛行機と鳳翔さんのこと

 

自分でつくるうまい!海軍めし―簡単!早い!おいしい!

自分でつくるうまい!海軍めし―簡単!早い!おいしい!

うた き

うた き